考え事をしているのか、心ここに在らずといった感じだ。
暫く時が経ち、今度は壁のほうへ視線をやるとそのまま歩き出す。
そして壁際まで来て一度立ち止まり、徐に顔を壁に打ち付ける。
鈍い音とともに軽く脳が揺れ、その場に倒れ込む。
また暫く経って、なんとか体を起こすと
仮面を手で触り、状態を確かめる。
傷一つ付いていないことを確認するとゆっくりと立ち上がる。
「…無理か」
一言呟くと、遺跡内の探索へ戻った。
意識が戻った時にはもう夜が更けていた。
灰の男は暗闇の中を手探りで置いてあった荷物を探し、
見つけると手に取り中を漁る。
中から小刀とマッチを取り出すと、今度は辺りの落ち葉をかき集める。
そして小刀で指先を浅く傷つけ、流れる灰を葉に落とす。
ある程度灰を流したところで止灰をし、マッチをすって葉に火を灯す。
火はゆっくりと明るさを増し、男の体を照らす。
男は全身をくまなく探り、やがて異常がないことを確認すると
たたんでおいた衣服に手を伸ばし、身に着ける。
身なりを整えたところで、ようやく息をつきその場に腰を下ろす。
「どうやら無事に終わったようだな。」
何事もなく再構成を終えたことに安心し、
荷物から食料を取り出そうとしたところで一瞬固まる。
「…たしかに残しておいたはずなんだが。」
もう一度中身をしっかり探してみたものの食材らしき物は見当たらない。
「次は場所を選ばねばならないな…」
溜め息混じりに呟くと、荷物をまとめ灯っていた火を消し街へと歩きだした。
何度目かの遺跡外。
外の空気は出る度に寒く冷たくなっていた。
吐く息は微かに白く、澄み切った空と日差しだけが
本格的な冬の到来に抵抗しているようだった。
寒さに震えながら足早に宿へ向かう探索者を尻目に
灰の男は人気のない場所を選んで歩みを進めていく。
「そろそろか…」
呟くと、街道脇の森林へと入って行く。
日の光が届かない奥所にたどり着くと
荷物を降ろし、一息ついた。
「やっかいな体質だな。」
ため息混じりの言葉を吐きながら
周囲の気配を注意深く窺う。
やがて誰もいないことを確認すると
おもむろに衣服を脱ぎ始める。
襟巻と装束、篭手布や脛当などを丁寧に荷物の脇に並べ
そこから少し離れたところに立つ。
「何事も無く済めば良いがな」
はずれない仮面や篭手を気にしながら、静かに佇む。
数分後、男の体に火が着き激しく燃え上がる。
赤く燃え盛る炎は全身を包み込み、男の形を崩す。
そして、完全に姿形を壊しきると役目を終えたかのように燃え尽き
後には灰とみられる固体と篭手のみが残った。
遺跡内での探索は順調に進んでいる。
そういえば、以前から随行していたワンダラーという
冒険者の集まりに参加する機会があった。
個性的な者達が多く賑やかなところで
正直、場違いではと尻込みしてしまったが…。
まあ、隅のほうで眺めているのも悪くはない。