2009/11/22 [22:55] (Sun)
灰の男が目を覚ましたのは砂地だった。
砂にまみれた服をほろいながら、ゆっくりと体を起こす。
「…ここは…私は…そうだ、マルメロど…」
辺りを見回し、少し前まで同行していたはずの仲間を探すがその姿は見当たらない。
それどころか、肌に風すら感じない静まりかえった空間に違和感を覚える。
「止まって…いるのか?」
あまりの気配のなさに、在り得ないと思っていたことを口に出してしまう。
刹那、一陣の風。
前方から降りかかる風は、再び男に砂をかぶせる。
「…っ!目が…」
つぶてに視界を奪われ、咄嗟に両手で顔を覆う。
風はすぐに止み、空間に静けさが戻る。
男は風が吹いたほうを確かめようと、目をこすり視界の確保に努める。
「…………!」
「探し物はこれですか?」
唐突に目の前に現れた聞き覚えのある無機質な声と、
それが指す答えに思わず動きが止まる。
男は砂をぬぐい、少しずつ開かれる目で声の主を見据えた。
男よりやや小柄なそれは、黒いローブで全身を包みこみ
わずかに見える口元とシルエットが人型であると示していた。
男に向けられた、手があるであろう裾の端からはひび割れた仮面がぶらさがっている。
「もう必要ないのかもしれませんが、一応…ね」
ローブの人型は口元を少しだけ緩め、仮面を男に渡す。
「お主が来たのなら、何もいらないだろう」
言いつつも男は仮面を受け取り、ひびを手でさする。
「どうやら一時的に止まってしまったようですね。
もしかしたら遠くないうちにまた動き出すかもしれませんが…どうします?」
男とも女ともつかぬ声で問う。
「充分だ」
男は迷いなく静かに答える。
「そうですか…」
ローブの人型は少し残念そうに呟くと、ゆっくりと近づき男の右腕をとる。
そして、はめてある腕輪をそっと外すと、そのまま数歩後ろへ下がる。
サラサラサラサラサラ…
灰の男から砂の流れるような音が聞こえてくる。
それは、男自身の体が崩れる音であり、少しずつ少しずつ人の形を壊していく。
サラサラサラサラ…
静かな空間にしばらくそれだけが響く。
「楽しめましたか?」
サラサラサラ…
男の体はすでに半分以上崩れ落ち、音もだんだん小さくなっていく。
「それなりに。」
サラサラ…
男の形はもはやなく、積もった灰がわずかばかり流れるだけになった。
「そう、それは良かった。本当に。」
やがて、黒いローブも去り、辺りは再び静寂に満たされた。
唐突に目の前に現れた聞き覚えのある無機質な声と、
それが指す答えに思わず動きが止まる。
男は砂をぬぐい、少しずつ開かれる目で声の主を見据えた。
男よりやや小柄なそれは、黒いローブで全身を包みこみ
わずかに見える口元とシルエットが人型であると示していた。
男に向けられた、手があるであろう裾の端からはひび割れた仮面がぶらさがっている。
「もう必要ないのかもしれませんが、一応…ね」
ローブの人型は口元を少しだけ緩め、仮面を男に渡す。
「お主が来たのなら、何もいらないだろう」
言いつつも男は仮面を受け取り、ひびを手でさする。
「どうやら一時的に止まってしまったようですね。
もしかしたら遠くないうちにまた動き出すかもしれませんが…どうします?」
男とも女ともつかぬ声で問う。
「充分だ」
男は迷いなく静かに答える。
「そうですか…」
ローブの人型は少し残念そうに呟くと、ゆっくりと近づき男の右腕をとる。
そして、はめてある腕輪をそっと外すと、そのまま数歩後ろへ下がる。
サラサラサラサラサラ…
灰の男から砂の流れるような音が聞こえてくる。
それは、男自身の体が崩れる音であり、少しずつ少しずつ人の形を壊していく。
サラサラサラサラ…
静かな空間にしばらくそれだけが響く。
「楽しめましたか?」
サラサラサラ…
男の体はすでに半分以上崩れ落ち、音もだんだん小さくなっていく。
「それなりに。」
サラサラ…
男の形はもはやなく、積もった灰がわずかばかり流れるだけになった。
「そう、それは良かった。本当に。」
やがて、黒いローブも去り、辺りは再び静寂に満たされた。
灰の山はすでに消え、そこにはひび割れた仮面と、砂にひっかかって浮けない襟巻だけが残った。
PR
Comment